出版不況で本が売れないのに、今また台湾の若者の間で本屋を開くのが密かなブームになっているって、知っていましたか?
どうもこんにちは、台湾在住4年目のまえちゃん@Maechan0502です。
さて最近台湾人のなかで、密かに注目を集めているものの中に、自分で開く本屋があります。
昔ながらの駅前にある本屋ではなく、でも代官山のTSUTAYA書店のモデルになった台湾の誠品書店でもない。
いま台湾では、店主たちが自分のこだわりを持ち、文化発信や地域の交流場所という機能を取り込んだ、「独立系書店」という第三の波がやってきているのです。
ぼくが参加した台南の独立系書店のイベント
今も台湾では、独立系書店の店主さんたちが、書店に集まる人々の生活を豊かにするため、日々奮闘しています。
そこで今回この台湾の独立系書店のまとめた台湾の書籍『書店本事』を、日本語に翻訳してクラウドファンディングで出そうとしている、小島さんにインタビューする機会がありました。
台湾の独立系書店事情と、台湾では有名な『書店本事』について聞いてきましたので、まだまだ情報の少ない台湾独立系書店について知るきっかけになれば嬉しいです。
ではどうぞ。
写真提供: 夢田文創
【追記】
こちらの本はクラウドファンディングで、無事に目標金額に到達しました!
ご協力ありがとうございました。
興味を持ってくれた方は、アマゾンで購入できますので、よかったらどうぞ。
インタビューした方 小島あつ子さんのプロフィール
インタビュー 台湾独立系書店について
前原:
最初の質問なのですが、なぜ台湾では独立系書店が生まれてるんでしょうか?
小島:
私が考えるに、4つある理由があると思っています。
一つは、独立系書店を開く台湾人店主の「地域社会を支えたい」という想いです。
台湾の独立系書店は、本を売るだけでなく、本屋が地域社会のある部分を支えている(プラットフォームになっている)というところがあります。
『書店本事』を読むと、誰かの役に立ちたい、社会や地域に貢献したいという強い意思がびしびし伝わってきました。
二つ目は資金ですね。台湾政府も助成金などを支援してバックアップしています。
『書店本事』の中にも助成を受けて開業しました、というお店がいくつか登場しました。
書店を開業したり、経営を続けていきやすい環境があるんだと思います。
三つ目はお金よりも、自分の好きなことを追いかけるライフスタイルへの憧れです。
ちょっと前に台湾で作家・村上春樹さんの「小確幸」という言葉が流行ったのですが、「あくせく働いて、お金を稼ぐのが果たして幸せなのか?」という悩みが台湾人にもあるそうなんですね。
『書店本事』には自分の内面の充実や理想の生活環境を求めて、本屋を生業に選んだ店主たちもたくさん紹介されています。
そして何よりも、台湾人の起業家精神じゃないでしょうか?
台湾人の先生から、「台湾人はすぐに老闆(店主)になりたがる!」と聞いたことがあります(笑)
起業したいと思ったら、あれこれ悩まず、まずやってみる。
そういうフットワークの軽さやチャレンジ精神も、独立書店の生まれる要因だと思っています。
前原:
小島さんから見た台湾の独立系書店の魅力はどこにありますか?
小島:
台湾人店主の発想の豊かさ・自由さ。あと「とりあえずやってみよう」という大胆さでしょうか?
書籍に出てくる台湾独立系書店の店主さんたちは、本当にいろんな手段で古書の仕入れにかかる費用をまかなっています。
例えば自家製野菜だったり、宿泊場所を提供したり、お金に替わる何かでまかなうとか、本当にユニークだと感じました。
自家製野菜と古書を物々交換する本屋を例に挙げると、物々交換をきっかけに、地域農家と消費者をつないだり、 環境や食に興味を持ってもらうなどにつながっています。
その先に期待されること、つまり本を売って商売する以上のことに価値を見出しているのには驚かされました。
桃園県にある独立系書店。本は売っておらず、宿泊施設がメイン
前原:
なぜ小島さんは台湾の独立系書店を扱った、『書店本事』をクラウドファンディングを使って出したいと思ったんでしょうか?
小島:
実はずっと、どこかの出版社がこの台湾の独立系書店を扱った、『書店本事』を日本語訳版を出版してくれるんじゃないか?と期待していました(笑)
でも、何年待っても日本の出版社から出版される気配はなく、それなら自分で出そうと思ったのがきっかけです。
前原:
気になったんですが、小島さんに出版経験などはないですよね?
自分で日本語訳の本を出したいと思っても、出版やクラファンは未経験の分野なので、ためらいなどはありませんでした?
小島:
実は私、2015年から台湾映画同好会という、日本未配給・権利切れの台湾映画の自主上映活動を続けているんです。
常々、「台湾の魅力的で興味深い映画を日本に紹介したい!多くの人と共有したい!」、という強い思いがあり、今まで6本ほど上映しています。
だから今回もそんな想いで、「この『書店本事』の良さを日本の人に伝えたい!もっと踏み込んだ台湾の社会を知ってほしい!」という気持ちで立ち上げてしまいました。
前原:
そうだったんですね(笑) ではもう少し本の内容を詳しく聞かせてください。
書籍の『書店本事』とはどんな内容なんでしょうか?
小島:
『書店本事』は、台湾で独立書店と呼ばれる、いわゆる町の本屋さんが43店あまり紹介されています。
これだけ多いと台湾の書店ガイドブックを想像してしまうかもしれません。
でもどちらかといえば書店主にじっくり追ったドキュメンタリー本と映像集です。
本で紹介されている独立書店の店主ひとりひとりの志はとても高く、実直でまじめそのものです。
一方で映像集に登場する店主たちは、みな人懐こく、とてもチャーミングで、そのギャップがまた、たまらなく魅力的だったりします。
台湾の町の本屋さんとその店主について、ライターと映画監督を起用して文章と映像という異なるふたつのメディアで わざわざアプローチしてドキュメンタリーを仕立てているところに、強く惹かれました。
前原:
書籍の『書店本事』の内容は、具体的にどんなことが書かれているんでしょうか?
小島:
この本には、書店店主さんの生い立ちや本屋を開くことになったきっかけ、当時の台湾社会と自分の書店との関係などを中心に語られています。
それも本当に素直に語られているんです。
たとえば台北にある唐山書店の例だと、店主さんは1950年代に新竹県で生まれ、台湾の客家系の家に育ったそうです。
でも当時は当時の家の環境は客家語しか話さないから、自分も客家語しか話せずに、台北に行った時に言葉が通じず、疎外感を味わった。
そういう子ども時代に台湾社会で感じた経験が、大きくなるにつ入れて人類学への興味となり、その後人文・社会科学系の書店を開くきっかけのひとつになったと インタビューで述べられてるんです。
また唐山書店が台北で営業開始した1982年は、台湾で戒厳令が解除される前の時代でした。
(前原注:1980年代までの台湾は現在の北朝鮮ほどではないけど、独裁政治をしていて、いろいろ国民のできることが規制されていた。)
しかし台湾の社会的には、徐々に民主化に向かっていていました。
その空気を感じていた店主さんは、政治的な理由で売るのが禁止されていた本(禁書)を書店で並べていたそうなんです。
しかも「当時の台湾社会は1994年まで海賊版を規制する法律がなかったので、どんどん海賊版の本を売っていた」なんて突っ込んだ話までしてくれています(笑)
おそらくこういう話って、インタビューする側の外国人が複雑な台湾社会の背景をわかっていないと、絶対に聞き出せないじゃないですか?
前原:そうですね。
だからこの本には、「台湾のブックカフェに行ったら、こんなにオシャレですよ。こんなコーヒーが飲めますよ」って内容は残念ながら書いてないんですよ(笑)
でも、その台湾の本屋さんに入った時に、お店への見方が変わると思うんです。
お店の店主さんが、どう台湾の社会で生きて、本屋を開くまでたどり着いたか?
台湾の独立系書店を知るきっかけにもなるんですけど、台湾人も深く知れる本になっています。
前原:
この本って映像もありますよね。これは書籍とどう違うんでしょうか?
小島:
映像は書籍でインタビューしている人とは、別の映画監督が撮っています。
だから聞いている内容とかは全然違ったりもするんです。
また私は台湾って、言葉も重要な要素だと思うんですね。
元の書籍だと全部中国語で書かれているんですが、映像版だと店主さんが中国語で語っていたのに、ある部分は台湾語で答えていたりします。
映像で話している部分からも、台湾人のバックグラウンドが見て取れるので、両方合わせて一つの作品なのかなと感じています。
前原:
この『書店本事』の魅力を教えてください。また出版されたら、どういうふうにぼくらはこの本を使うことができるでしょうか?
小島:
今回のプロジェクトでは、翻訳に天野健太郎さん(『歩道橋の魔術師』『台湾海峡一九四九』『星空』など)が参加してくださっているんですが、天野さんはこの本の魅力をこう表現されています。
「 台湾を紹介するときによくある、日本人のハイセンスな切り口でなく、台湾人自身の素直でフラットな視点」
だと。
日本人が日本人に向けて台湾のオシャレな場所やお店情報を紹介するのは、すでにガイドブックやネットにたくさんあります。
でも台湾人が台湾人にインタビューして、受け答えてしているものは、ほとんど日本語に訳されていないと思うんです。
普段着の台湾をのぞけるのは、この本の魅力の一つですね。
あと映像集があるということです!
原書では、各書店のページからQRコードをスマホで読み取ると、YouTubeにアップされているその書店の映像にたどり着けるようになっていました。
今回は、この仕様をそのまま日本語版に反映できるようにします。
本を読みながら、気になったお店はスマホやタブレットですぐに映像を楽しめる。
もちろん日本語字幕で視聴できるようになります。
あと、台湾人イラストレーターによる、ちょっとシュールででも可愛らしい挿絵にも、注目して欲しいです!
前原:
最後に何か伝えたいことがあれば、小島さんからお願いします。
小島: 台湾映画は「実際に見てみたら良かった!」という作品が多いです。
それと同じで、今回の本と映像集も、実際に読んだら、良い内容だった、面白かった!と言っていただける自信があります。
日本国内で、台湾に関する出版物の点数は確実に増えてきていますが、台湾で作られた台湾人による本は、台湾映画と同じく、なかなか日本に入ってくる機会がありません。
今回のプロジェクトが成功すれば、今後台湾で作られたコンテンツが日本に入ってきやすくなるかもしれないとの期待も込めて、今回のプロジェクトは何としてでも成功させたいと考えています。
実現までには更に多くのご支援が必要です。
今回のプロジェクトや作品にご興味を持っていただけましたら、ぜひお願いします。
また、台湾映画同好会の「日本でなかなか紹介されない台湾で作られた台湾向けの作品を日本語で楽しむ」という主旨にご賛同いただけましたら、ぜひクラウドファンディングへのご参加をお願いいたします!
編集後記
というわけで、どうでしたでしょうか?
ぼくも昨年の2017年の5月に大阪のブックフェスに行き、「台湾で今独立系書店という新しい本屋の動きがあると初めて知りました。
しかしその後も、台湾の独立系書店に関する書籍や情報はネットに全然ありません。
そこでこのクラウドファンディングの企画を知り、自分も読んでみたいから実現してほしい!と思ってインタビューさせてもらいました。
この書籍には、台湾の独立系書店の動きだけではなく、台湾の社会や台湾人の想いも強く載っているそうです。
流行としてあたらしい台湾の書店を紹介するだけではなく、独立系書店の根本的な部分が紹介されているので、台湾理解や書店を出したい人にもいいのではないでしょうか?
というか、元古本屋の店長だったぼくは、台湾人を知ることにも、書店を開くことにも興味あるので、ぜひクラファンの実現を願っています(笑)
クラウドファンディングはこちらから応援できるので、興味を持った人は是非お願いします。
https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/2321?utm_medium=GREENFUNDING&utm_source=Portal
ではまた!
【追記】
こちらの本はクラウドファンディングで、無事に目標金額に到達しました!
ご協力ありがとうございました。
興味を持ってくれた方は、アマゾンで購入できますので、よかったらどうぞ。
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